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    vol.63

    洋裁教室運営

    福地瑞子さん

    成城洋裁教室 kazon 主宰

    閑静な住宅街にあるご自宅のアトリエで洋裁教室を開かれている福地さん。流行を追うのではなく、なぜその服を着るのかということにまで思いを巡らせて、着る人を大切にした服づくりをされています。第一印象でその人のやさしさを感じられるような服をつくりたいとお話して下さいました。アトリエに迎え入れて下さったこの日は、上品でやさしい色合いのホームスパンの生地で仕立てたスーツをお召しでした。着こなしや身のこなしも美しい福地さんに、日々の習慣についてお話を伺いました。

    日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 福地さん

      規則正しい生活が基本ですが、毎日楽しいことをプラスして、鮮度のある生活を心がけています。

      北麓草水

      鮮度のある生活というのは、素敵な表現ですね。具体的にはどのようなことなのか、教えていただけないでしょうか。
    • 福地さん

      お野菜やお魚も新鮮なものが美味しいように、毎日の暮らしの中にも新鮮なことを取り入れたいと思っています。暮らしは日々同じことのくりかえしでつくられていますが、そんな中にも毎日小さな新しいことや、驚きのあることを加えたいのです。例えば庭で育てているハーブを使って、色の変わるハーブティーを淹れてみたりして楽しみます。ワインに入れるとお花の色が変化するハーブもあるのですよ。庭で育てているハーブとお野菜はお食事やお茶の時間に使って楽しんでいます。

      北麓草水

      それはきれいで楽しいですね。どんなハーブの花を使うとよいのですか?
    • 福地さん

      お茶にするのは、マロウのお花です、別名ウスベニアオイ、コモンマロウと呼ばれています。咲いている赤紫色のお花を4~5輪ティーカップに入れて、熱湯を注ぐときれいな青色のお茶になります。星型の小さなお花を咲かせるボリジは、同じくカップにお湯を注ぎ浮かべた後、レモンを一滴落とすとピンク色に変化します。お客様や家族が驚く顔を見るのも楽しいですね。

      北麓草水

      取材で伺ったこの日は、みぞれまじりの雨が降る日でした。アトリエの椅子に腰をかけると、福地さんが漆の器に入れた温かい甘酒を出して下さいました。そして「この甘酒の中には何かが隠れていますよ。」と、楽しいいたずらをした少女のような笑顔をされました。ぽってりとした丸い形の漆器に入った温かい甘酒をいただいていると、茶色の固形物が入っていて、食べてみると甘さと香りが口に広がりました。それは干し柿と柚子の皮の甘露煮でつくられたお菓子を小さく切ったものでした。甘酒は冷めないように、そしてかじかんだ手を温めながらいただけるように漆器を使い、その中に宝探しのようにお菓子を忍ばせて喜ばせて下さる心遣い。これこそがお話下さった、鮮度のある生活なのかと感動しました。
    • 福地さん

      ハーブや植物にとても詳しくていらっしゃいますが、家庭菜園以外にも何か趣味でされていることはありますか?

      北麓草水

      庭では野菜やハーブと一緒に薔薇を育てています。きれいなお花を咲かせるには、手入れと虫がつかないように農薬が必要なのですが、農薬は使いたくないので、いつも苦労しています。植物は言葉で自分の状態を伝えてくれず、観察して感じることで対話をするしかないので、上手に育てるのは難しいですね。農薬を使わないのは体への影響の心配もありますが、使うと虫がすっかりきれいにいなくなって、それを食べる鳥も来なくなるのです。それではいくらお花がきれいに咲いたとしても、少し不自然で寂しく感じます。この地域も一昔前には林があって、とても緑が多いところでした。家も植物の生け垣に囲まれて、庭にも大きな木が何本もありました。木々があることは、そこをすみかにする小さな生き物がいることで、それが豊かな環境だと思います。庭の緑は小さな存在かもしれませんが、次の世代に少しでも緑のある豊かな環境を残したいと思っています。趣味に関しては、面白いと思ったことは何でもやってみたいほうなので、陶芸を習ったこともあります。テラコッタでつくった小さな器は、綿と布を入れてピンクッションとして使っています。今は表装を習っています。話が矛盾するようですが「一芸に秀でる」という言葉が好きで、一芸に秀でた方の匠の技を見るのがとても好きなのです。何かに一生をかけて取り組み、技を磨くことで、そこからくる考え方や知恵が生きる上で様々なことに役立つようになると思います。私にとってはそれが洋裁なのですが、服をつくることは試行錯誤して、工夫することの積み重ねです。それが生活の中でも、工夫しアイディアを活かす知恵となっているように思います。またそれとは逆に、専門以外のことに取り組むことで、新たな発見や驚きがあり、中心である仕事にも活かせると思うのです。例えば表装で使う和布の色彩の美しさは、西洋のそれとは全く違うものです。同じ布を使う仕事でも仕立て方も布の扱い方も全く違います。春の漢詩を書いた短冊を飾るための表具は、鶯色の絹の花模様のジャガード織りで裏面の金糸を使ってみるのも面白いと、先生がアドバイスして下さってつくりました。先生の発想の柔軟性を感じました。
    • 福地さん

      趣味として取り組まれていることも、暮らしやお仕事への新しい着想になって活かされているのですね。

    その他に大切にしていること、習慣にしていることは何かありますか?

    • 福地さん

      静と動のバランスが大切だと考えて生活しています。洋裁は椅子に座って仕事をする時間と、布のよさを活かすようにどんなデザインにして、どんなつくりにしようと頭で考える時間が多い仕事で、静の部分が多いですね。それに対して動というのは、自分から社会の中、みなさまの中に入っていって、自分の存在を確かめることだと思っています。まずは自分の足で歩いて外に出て行くこと。そして体を使い動かして、体力をつけることが大切だと思っています。今では日常の中に動くことを取り入れて、行動するようにしています。週に数回、区立のスポーツ施設に通っていますが、そこまでも歩くようにしています。また近くに美術館などがあるので、興味のある展示はウォーキングかサイクリングで行くようにしています。用事が済んでから行こうと思っているとなかなか行けません。出かけながら用事を済ませたり、まず体を動かしてから仕事や用事を済ましたりするようになりました。体を動かし始めると、何事もフットワークよくできるようになります。いつもiPadに目的地を入力して、道順と所要時間を調べ、iPadのマップを見ながら歩いています。次回は違う道を通って行ってみようとか、日々小さな冒険を楽しんでいます。

    見たり聞いたりしたよいことは、すぐに試してみるという福地さん。日々のことをとても楽しそうにお話して下さいました。ご結婚をされる前には、オーダーメイドの洋裁店をされていらっしゃった腕をお持ちです。最近になって自分の好きなことに時間を使えるようになり、ご自宅にアトリエをつくられ、洋裁のお仕事を再開されました。手づくりする楽しさと喜びを次の世代に伝えながら、ご自分も心から、仕事と暮らしと人生を楽しんでいらっしゃる姿が輝いて見えました。ありがとうございました。