北麓草水

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みんなの習慣

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高澤久さん

vol.64 高澤久さん

高澤ろうそく五代目

石川県七尾市で古くから盛んな和ろうそくづくり、そのはじまりは前田利家が加賀百万石の礎とした工芸産業発展のために、優秀な職人を集めたことに遡ります。当時の暮らしに欠かすことのできない和ろうそくは、安定した明るい炎を灯すために様々な知恵と工夫が集められています。1892年創業の高澤ろうそく五代目の高澤さんは、家業の和ろうそく製造販売と共に、和ろうそくのある暮らしを提案される講演会を開いたり、地場産業を応援するプロジェクトにも取り組んでいらっしゃいます。そんな高澤さんに日々の習慣について、暮らしの中で和ろうそくの光を楽しむことについてお話を伺いました。

日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

高澤さん
朝10kmほどランニングを続けています。平日の一日と週末の一日とで、週2回ほど朝食前に走るようにしています。
北麓草水
ランニングをはじめられたきっかけがあればお話いただけますか?
高澤さん
35歳になったときに体力の低下を感じて、何かをはじめなくてはと思いましたが、それまで特別運動やスポーツはしていませんでしたので、一からはじめました。地元で年一回「能登和倉万葉の里マラソン」が開かれていて、40歳でそれに出場しようと決めたのです。42kmのフルマラソンなので、まずは体を動かすことから始めました。当初は200m~300mくらいしか続けて走れませんでした。
北麓草水
少しずつ走る距離をのばして、フルマラソンを完走されたのですか?
高澤さん
はいそうです。それ以来、毎年かかさずにマラソン大会に出場して完走しています。
北麓草水
それは素晴らしいですね。ランニングやマラソンをはじめられて、よかったことなど教えていただけますか?
高澤さん
日々のランニングは朝食前に走るので、朝早起きになりました。走っている間は一人の時間なので、今まで気が付かなかったことに気が付くようになり、毎日思いがけない発見があります。例えば走っていると鳥の鳴き声が聞こえるのですが、鳥によって声のちがいがあったり、同じ種類の鳥でも季節によって鳴き声が変わるのです。以前は鳥が鳴いているな、と思うだけでしたが、様々な鳥の声を聞き分けられるようになりました。そこから季節の移り変わりや、自然の営みに思いを巡らせるようになりました。
北麓草水
走っている時間もとても有意義な時間なのですね。走り続けることで大変なことはありますか?
高澤さん
平日は仕事がありますし、週末は家族との時間を大切にしたいので、週2回ですが、走る時間をつくることが少し大変ですね。
北麓草水
お忙しい中時間をつくって続けられるのは、素晴らしいですね。
高澤さん
フルマラソンを走っている最中はとても苦しいです。走っているともう止めたいと思うのですが、自分が一歩踏み出さないとゴールに届かないのです。あたりまえのことですが、それを毎年体感することは毎日の生活や仕事の中で、自分の気持ちを支えるものになっているように思います。問題に直面した時も、一歩一歩踏み出せばゴールに届くと思うようになりました。そしてもうひとつ言葉で表現するのは難しいのですが、マラソンを走っていて苦しくなってくると自分を客観視するもうひとりの自分が現れるのです。そのおかげで仕事や日常で課題をかかえた時などにもう一人の自分と対話することで、心を落ち着けて問題に冷静に対処できるようになった気がします。
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暮らしの中で、和ろうそくの楽しみ方や、優れている点など教えていただけますか?

高澤さん
日々たえまなく流れる時間の中で、一本の和ろうそくに火を灯してみてください。一本のろうそくが燃え尽きるまでの時間で、和ろうそくの明かりのもとで、本を読む、ヨガや瞑想をする、食事をする。そのような時間をつくるために和ろうそくを灯してみてください。和ろうそくには、長さや太さで燃焼時間が様々なものがあります。小さなものは約20分や30分からあるので、忙しい日々の中で、ゆったりとした特別な時間をつくるのにちょうどよいサイズです。
北麓草水
時計やタイマーで時間を計るのではなく、和ろうそくの火が灯っている間に何かをするというのは、その時間と空間が少し特別なものになりますね。高澤さんはどんな時に使われますか?
高澤さん
家族との夕食の時間に使います。和ろうそくのよいところは、一本で雰囲気を変えられるところです。いつもの食卓が、少し特別な感じになります。みなさん日常を忙しく過ごされている方が多いと思います。和ろうそくに火を灯すことで、時間の流れを少し変えて、ほっとする時間を持っていただけたらと思います。和ろうそくの炎がゆらぐのを見つめていると、自然のリズムを感じるようでとても気持ちのよいものです。
北麓草水
炎を見ていると、無心になって気持ちが落ち着きますね。和ろうそくを使ってみると炎が大きくて明るく、蝋が垂れて残ることなく最後まできれいに燃え尽きることに驚きました。燃える時の匂いがなくキャンドル(洋ろうそく)とは違いますね。和ろうそくの特徴などを教えていただけますか?
高澤さん
和ろうそくは、ほぼ植物を原材料につくられています。昔から身の回りにある植物を使いつくられていて、環境にも人にもやさしいものなのです。それから、洋ろうそくとの違いは火を付けてみると炎に表れます。和ろうそくは灯芯(とうしん)に特徴があり、芯の中心が空洞になるようにつくられています。そこに下から空気が入るので、炎が明るく燃え続けます。和ろうそくの芯は和紙でつくられていて、その周りに丁寧に、灯芯草(とうしんそう)というイグサの仲間の植物を巻き付けています。灯芯草は内部がスポンジのような構造になっていて、とけた蝋を吸い上げます。そのようなつくりで、和ろうそくは炎がゆらゆらと大きくゆらぎ、消えにくいのが特徴です。
北麓草水
芯がそのようなつくりになっているとは、始めて知りました。素晴らしい発明ですね。
高澤さん
先人達が長い歴史をかけてつくり上げた知恵と技ですね。今でも高澤ろうそくでは、古くからのつくり方を受け継いで手作業でつくっています。
北麓草水
米糠、菜種、ハゼの実など、使われる蝋は様々な植物から取ったものが使われているのですね。
高澤さん
和ろうそくの蝋は植物から取った蝋が使われています。様々な植物から蝋成分を取ることができます。2年前からは能登輪島で採れた漆の実だけを使いつくった、うるしろうそくをつくって販売しています。能登は輪島塗の産地ですが、今では国内産の漆が使われているものはほんのわずかです。地元では輪島産の漆を増やそうと植林を進めているのですが、植林をしてから木が成長して漆を取ることができるようになるまで、20年ほどかかります。成長する間も毎年できる実を私たちがすべて買い取り、その実から蝋を生成して、採れた分の蝋でうるしろうそくをつくっています。毎年の収穫量でつくる量が変わりますが、昨年採れた実で毎年新たにろうそくをつくることは、自然の大きなサイクルの中に、和ろうそくつくりがあることを感じます。また実をすべて買い取ることで、木の手入れや山の手入れをする人たちの手助けができるのではないかと考えました。和ろうそくをつくることを通じて、日本の漆文化にも協力していきたいと思っています。このうるしろうそくは、他のろうそくと比べて温かみのある橙色の炎が生まれます。
北麓草水
自然のサイクルの中で山や自然を相手に働く人、和ろうそくをつくる人、そして使う人と、すべてが循環している素晴らしい取り組みですね。日々の暮らしの中で、和ろうそくを安全に楽しんで使う為のコツなどがあれば教えていただけますか。
高澤さん
近年はオール電化、LEDライトが普及して暮らしの中から火がなくなりつつあります。そんな時代だからこそ、火を灯す時間を持っていただきたいと思っています。火を扱うことですから、燃えやすいものを近くに置かない、水平な場所で使うなどの注意をしてください。また、使われる和ろうそくに合う和ろうそく用の燭台を使ってください。火の大きさを調節できる芯切りという道具もあります。はじめは燃焼時間が30分くらいの小さな和ろうそくから試していいただけたらと思います。そして和ろうそくを灯す時は、蛍光灯などの直接照明は消して、間接照明で調節して雰囲気を出してみて下さい。私は和ろうそくの炎を灯すことで、心の中のコップが満たされると思っています。日々の忙しさやストレスで、心の中のコップの水が減ってしまったと感じたら、和ろうそくの炎を灯し、炎のゆらぎを見つめてゆったりした時間を持つことで、心の中のコップを満たしていただきたいと思います。

北麓草水は、オープン以来高澤ろうそくさんの和ろうそくを扱わせていただいています(現在はKITTE丸の内店のみ)。日本の自然と共に地域と繋がり、人の手によるものづくりをされている高澤さんのお話は、北麓草水の考えと共通することも多く、その取り組みに感銘を受けながらお話を伺いました。小さな和ろうそくに火を灯してみると、明るさと共にほんのりとした熱が伝わってきます。その温かさはこの小さな和ろうそくにこめられた歴史や知恵、それを今に伝え広げている高澤さんたちの志と情熱のように感じられました。慌ただしい毎日の中で、時には和ろうそくに火を灯し、静かに自分と向き合う時間を持とうと思います。ありがとうございました。

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