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    vol.71

    料理家・グラフィックデザイナー

    飯塚有紀子さん

    家庭で作れる丁寧なお菓子作りを提案

    特別な道具や材料を使わずに、分かりやすく美味しく出来るレシピを開発し、お菓子教室やご著書、テレビ番組で提案されている飯塚さんです。下町にある古いビルをリノベーションしたアトリエは、合理的なキッチンと古い床材や家具が調和した美しい空間です。パリのアパルトマンのようなアトリエを訪ねて、習慣についてお話しを伺いました。

    日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 飯塚さん

      食事を一番大切に考えています。3食きちんと食べることを暮らしの中心にしたいと思っています。

      北麓草水

      きちんとというのは、決まった時間に、しっかり栄養バランスのとれた食事をするということでしょうか。
    • 飯塚さん

      食事は大体決まった時間にとるようにしています。朝食はその日の朝につくって食べます。たいそうなものでなくて、ご飯と味噌汁、漬物とちょっとしたおかずといったごく簡単な献立です。

      北麓草水

      日中お仕事をされていると、昼食は外食や買ったものが多くなりませんか?
    • 飯塚さん

      昼の時間はこのアトリエで仕事をして過ごすことが多く、仕事場にキッチンがあるので、簡単につくって食べることが多いです。朝アトリエに来た時に、野菜を切って鍋にかけて昼食用にスープを仕込んでおくこともあります。にゅうめんにおろし生姜を入れて、かきたま汁仕立てにしたり、パスタもよくつくります。

      北麓草水

      小さなキッチンと材料があれば、手早く一人分の昼食を作れますね。
    • 飯塚さん

      夕食もほとんど自炊しています。夜の7時頃までには、夕食を食べるようにしています。そして早い日は9時に、通常でも10時には寝ています。

      北麓草水

      それはとても規則正しく、睡眠時間をしっかり取られている生活リズムですね。お話のように食事を毎日決まった時間にとるように心がけていないと、食事の時間がずれて、眠る時間も遅くなるというリズムになりがちです。食事を生活の中心に置くと、一日のリズムが定まるということなのですね。
    • 飯塚さん

      私もずっとそうして来たわけではありません。育った家は下町で自営業でしたので、朝、昼、夜と家族揃って、決まった時間に食事をする環境で育ちました。大人になって、デザイン事務所に就職をすると、夜10時半まで仕事をして、終電で家に帰り、夜中の1時過ぎに寝るという毎日が続きました。フリーランスになって、仕事を続けていくうちに、きちんとした仕事をするにはきちんとした生活が大切で、それにはきちんとした毎日の食事が必要だと自然に考えるようになりました。そうできない時期があったので、大切さが身にしみてわかったのだと思います。

      北麓草水

      きちんとした生活を送るために、食事以外で心がけていらっしゃることがあれば教えていただけますか。
    • 飯塚さん

      準備に時間をとることです。生活のリズムを崩さないことを心がけています。準備を滞りなくしておくことで、予定以外のことが起こっても、それに対処する余裕が生まれます。生活のリズムを崩さないことも同じで、予定外のことに対応した後も、毎日のリズムができていれば、すぐに元のペースに戻ることができるのです。慌てて何かをしたりすることが苦手なので、そのようにしています。心や体が疲れている状態でお菓子をつくると、お菓子にそれが反映されてお菓子が荒れてしまうような気がするのです。心と体を常に整えることを心がけています。

      北麓草水

      お話を伺いながらアトリエを見渡すと、物はあるべきところに収まり、きちんと整っていて、いつでも仕事を始められる状態になっていて、飯塚さんのお話の通りの空間です。飯塚さんご自身も、真っ白でシワひとつないワンピースをお召しでした。伺うとそれは仕事用のタブリエ(ドレススタイルのエプロン)で、お菓子やお料理の仕事の時にいつも身につけていらっしゃるそうです。

    その他に大切にしていること、習慣にしていることは何かありますか?

    • 飯塚さん

      気持ちを整えることを大切にしています。そう思うようになったきっかけは、ずいぶん前のことになります。20代の頃に会社員を辞めてお菓子教室を始めた頃、仕事場を友人とルームシェアしていました。友人はアーユルヴェーダーのマッサージを仕事にしていました。フリーランスで仕事を始めたばかりで、物事が思うように運ばないことも多く、私が疲れたり、悩んだりしている様子を見ると、彼女が手や足をマッサージしてくれて、いつもよい言葉をかけてくれたのです。そうしてもらっているうちに、いつも気持ちが落ち着き楽になりました。彼女は素敵な言葉を、本や街で見かける広告などから見つけては、それを書き留めて覚えていて、必要な時にさりげなく差し出してくれるのです。ある時、彼女に言われた言葉で、とても印象に残っているものがあります。自分の手に大切なものを握りしめていて、それを誰にもあげたくない、あげるとなくなってしまうと心配して、強く握ってしまう。けれど、それを誰かに分けてあげても減らないし、無くならないよ、というようなことを言われました。その言葉をきっかけに、仕事に対する考え方、姿勢が少しずつ変化した気がします。自分の持っているものを、惜しみなく気持ちよく出すことで、相手や周りが喜んでくれて、また次に繋がるよい循環が生まれるようになりました。そして自分の気持ちが穏やかであると、周りの空気にそれが広がって、一緒にいる人も、穏やかで安心した気持ちになってもらえたら嬉しいなと思っています。

      北麓草水

      飯塚さんはデザイナーとしてもお仕事をされています。ご著書の「やさしいお菓子」シリーズでは、お菓子づくりからデザインまでされています。材料、つくりかた、手順を全て写真で見ることができて、とてもわかりやすいですね。またポイントになることは、それぞれのレシピに繰り返し表示されていて、とても親切だと感じました。
    • 飯塚さん

      家庭でつくるお菓子をテーマにお菓子教室を続けているので、家庭でつくるのが、一番美味しくできると思っています。自分が食べたいと思った時、誰かの為につくったり、ちょっとした手土産に持って行ったり、家のキッチンでつくるお菓子には、つくり手のやさしい気持ちや、時間も入っています。いつでも手に入る材料と家庭にある道具で、わかりやすく失敗しないレシピが必要です。そう思ってつくった本です。おかげさまでご好評をいただいていて、子どもが見てもわかりやすいとか、文字を理解しにくい人でもわかりやすくつくれたとか、思わぬ感想をいただいて嬉しく思っています。

      北麓草水

      飯塚さんのわかりやすく美味しいレシピを伝えたい、というやさしい気持ちと丁寧で細部にまで心配りしたお仕事が、多くの人に届いているのですね。私もこの本を見ながら久しぶりにお菓子づくりをしてみたいと思います。

    アトリエのドアを開けると、甘くやさしい香りがしました。その日の朝に焼いてくださった、フィナンシェとブッセをごちそうになったのですが、その味はやさしく、控えめながら深く、今まで食べた焼き菓子で一番美味しいと思うものでした。手づくりのお菓子は人の心を豊かにし、一緒に過ごす時間を豊かにしてくれるものなのだ、と思いました。お菓子教室の「un pur…」はフランス語で混じり気のない、純粋な、という意味があるそうです。経験や時を重ね、より純粋でシンプルなスタイルになっていらっしゃる、飯塚さんご本人と重なる言葉です。ありがとうございました。そしてごちそうさまでした。