北麓草水

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みんなの習慣

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扇谷一穂さん

vol.66 扇谷一穂さん

声と絵

幼い頃に能とバイオリンを習い、思春期にジャズと出会って、自分の声の持つ響きの面白さに気がつき、音楽活動をはじめられた扇谷さん。音楽家の間でも評価が高く多くのファンを持ち、多様な活動を展開されてきました。絵画表現も続けていらして、ご自身のアルバムジャケットを手がけ個展を開催、アートワークでもご活躍をされています。8年振りに新しいアルバムを発表され、新しい世界をつくり続ける扇谷さんに、日々の習慣、大切にしていることについてお話を伺いました。

日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

扇谷さん
深呼吸することを習慣にしています。自分の呼吸を観察することで、今の自分の状態を確認することができます。
北麓草水
深呼吸することを習慣にされるようになったきっかけがあれば、教えていただけますか。
扇谷さん
歌うことは、呼吸と深い関係があります。歌うことは呼吸することそのものとも言えます。呼吸を意識するようになったのは、中学生の頃です。サラ・ヴォーン(1940年代〜1980年代にかけて活躍したジャズヴォーカリスト)の声が大好きで、サラのCDを聴きながら、ロングトーンで声を出すことを繰り返しまねしていました。長く息を吐ききると、自然にたくさんの空気が体に入ってきます。自分の中に少しも空気が残っていないように感じるまで、息を吐くことができると、吸った息が体のどこに入っていくか感じられるのです。まずお腹に入り、体の脇に入り、胸、背中にも入るように感じます。
北麓草水
深呼吸をする時に、大きく息を吐いて、吸う時はお腹を膨らませる腹式呼吸を意識することはありますが、体中に息が入るという感覚は持ったことがありませんでした。
扇谷さん
お腹を意識することは、とても大切だと思います。古典芸能や武道など、日本には丹田(お肚)を中心とした体の使い方が根付いていたように思います。日本以外でも、以前に見た外国映画で、主人公が「この音楽にはソウルがない。」と言ってお腹を指さすワンシーンがあり、とても印象に残っています。心で歌うとよく言われますが、心に届くように歌うとは、精神論ではなく、お腹を使って歌うということなんだ、お腹にソウルがあるのだ、と自分の経験してきた身体感覚と言葉がぴったり合ったようで、とても腑に落ちたのを覚えています。
北麓草水
とても興味深いお話ですね。心を決めることを腹がすわる、深く信頼できる友人を、腹心の友と表現します。日本人は昔からお腹と精神性の関連を知っていたのですね。日常の中ではどんな時に深呼吸をされるのでしょうか。
扇谷さん
歌う前には、意識を集中させて深呼吸をします。自分ではわからなくても、どこかに緊張があると息が上手くはききれず、息がスムーズに入ってきません。そんな時は、自分の体が湖に浮かんでいるようなイメージを描いたりして、体の力を抜いてリラックスするようにします。または香りの力を借りることもあって、アロマオイルやポプリを近くに置いて、心と体をリラックスさせて深呼吸をします。毎日の生活の中では、心と体をリフレッシュさせるために深呼吸をします。部屋の窓を開けて外の景色を見て、風や光を感じて深呼吸するとよりリフレッシュできると思います。
北麓草水
新しいアルバムの1曲目は、まさに「深呼吸」という曲ですね。
扇谷さん
このアルバムをつくるのに、前作から8年もかかってしまいました。その間に経験したことや通ってきた時間を越えて、作品をつくろうと決めた時、「自分は生きている。」ということに改めて気づいたのです。生きていること、呼吸、鼓動など体を意識した曲がいくつも生まれました。
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その他に大切にしていること、習慣にしていることは何かありますか?

扇谷さん
ある保育園でゲストティーチャーとして、子どもたちと声で遊ぶ体験を共有しています。その時間は私にとって、新鮮な体験でとても大切な時間になっています。そしてこれからも発展させ、続けていきたいと考えています。
北麓草水
子どもたちとどのようなことをされているのか、具体的にお話いただけますか。
扇谷さん
「心音」(こころね)の時間」という名前を付けていただいた時間で、はじめに簡単に体を動かした後に、今まで続けてきた声のトレーニングをゲーム感覚で出来る様に「声の体操」というプログラムにしています。声を長く出してみたり、唇をブルブルさせたり声をゆらしてみたりなど、声で遊びながら声をほぐしていきます。そして、アリさんの声、クジラさんの声を出してみようと提案するとアリさんの声ってどんな声だろうと、子どもたちは一人一人感じ考えて表現してくれます。クジラさんの声では、思い切り大きな声を出すのですが、なかなか日常生活では意識して大声を出すことも少ないので、大声で叫んだ後の子どもたちのすっきりした表情は忘れられません。それからみんなが知っている歌を歌って、歌詞の中のある言葉を小さな声で歌い、そこから大きくして歌ったりして歌で遊びながら、言葉と声を感じます。毎回テーマを持ってプログラムをつくるのですが、テーマに沿って選んだお話を朗読し、子どもたちにテーマについての問いかけをします。先日は春をテーマにして、五味太郎さんの「春」を朗読しました。プログラムのはじめに「みんなは、どんな時に春が来たなあって思うかな?」と問いかけた時、「虫を見たとき。」「ツツジの蜜をのんだとき。」など次々に自分の感じたことを言葉にしてもらい、それぞれ振り返る時間になりました。子どもたちの感性の豊かさに、いつも驚かされています。
北麓草水
とても楽しそうな授業ですね。私もいっしょに体験してみたいです。思いっきり大きな声を出すことは、ずっとしていない気がします。
扇谷さん
大人でも大きな声を出すことや、声で遊ぶこと、声をほぐすことは楽しい体験になると思います。声を使って、日本語の持っているリズム感に音楽の発想とは違う角度から、アプローチをしたいと考えています。日本語の持つドキドキ感やきらめきを、言葉遊びのように表現したいと思っています。
北麓草水
今後の扇谷さんの活動予定などを教えていただけますか。
扇谷さん
絵の展覧会とライブの予定があります。朗読も定期的に行なっています。
* 6月12日(火)~24日(日)絵の展示。鎌倉市由比ケ浜「Dahlia」
* 7月7日(土)new album「heart beat」リリースライブアコースティックセット 蔵前「T」にて開催予定。
*10月5日(金)~9日(火)ライブと絵の展示。世田谷区経堂 カフェギャラリー「芝生」
詳しくは、扇谷一穂ウエブサイトでご確認ください。http://www.kazuhooogiya.com/

扇谷さんの新しいアルバム「heart beat」を聴いていると、扇谷さんの息づかいと生命力がとても心地よく伝わってきました。そしてそれは一人の女性が、時に強い風にふかれ、波にさらわれそうになりながらも、しなやかに生きて輝いている姿のようでした。同時に、すべての女性たちへの温かなメッセージでもあるように感じました。時々深呼吸して、懸命に日々を生きている自分に、たまには思い切りやさしくしてあげましょう、とやさしく励まされたような気持ちになりました。ありがとうございました。

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