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    vol.69

    木工作家

    渡邊浩幸さん

    生活にとけこむ器を制作
    アトリエで金継ぎ、木工を教える

    大学、大学院で伝統に基づく漆芸と木工を学んだ後、学生に教える経験をされた渡邊さん。高い技術をもってつくられる器は、シンプルで正統的な形の中に、暮らしに寄り添った温かな空気感と確かな存在感を漂わせています。アトリエで開催される教室は、渡邊さんの気さくな人柄と丁寧な指導で、いつでも満席です。空が高く見える郊外にあるアトリエを訪ねて、お話を伺いました。

    日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 渡邊さん

      暮らしの中で使うもの、身につけるものや、食べるものはできるだけ、自然に近いものを選ぶように心がけています。そうすることによって、毎日の暮らしの中でも、自然の中にいるような、自然との一体感を感じて生活できると思います。食事、食べることを大切にしています。何より食事は楽しく、おいしく食べたいと思っています。 普段の家族との食事では、地元の農家さんの畑でとれた野菜を使って、新鮮な旬のものを食べています。化学調味料は使わずに、自然塩や昔ながらの製法でつくられた調味料を使って料理をしています。友人や家族と外食をする時は、選択肢が狭くなって、窮屈になってしまうので、材料や調理法など気にしすぎないで、おいしさと楽しさを最優先します。

      北麓草水

      渡邊さんご自身もよく料理をされるのですか?
    • 渡邊さん

      料理することはとても好きで、週2日夕食は僕がつくります。

      北麓草水

      渡邊さんの作品は、器やランプシェードなど、生活の中で使う道具が多いようですが、ご自身の生活スタイルとも繋がっていらっしゃるのでしょうか。
    • 渡邊さん

      食卓に置いたときに、すんなり暮らす人の持つ空気感にとけこむような器を、つくりたいと考えています。自分自身、食べることが大好きなので、料理にまつわる器をつくるようになったことは、とても自然なことなのかもしれません。このくらいの大きさ、深さがあると、こんな料理に合うな、大人数の料理を盛りつけて、この大きさと重さだと使いやすいかなとか。いつも食事をしながら、リサーチしたり試したりしていますね。同じように見える器でも、ひとつひとつ小さな工夫を加えてつくるのが、とても楽しいです。

      北麓草水

      アトリエの外に大きな木を材木にしたものが、置いてあります。あのような大きな木から器をつくられているのですか?
    • 渡邊さん

      つくっている器は毎日の暮らしで使う小さなものですが、元の木は大きな木なのです。材料になる木を丸ごと買うことによって、その木がどんな姿をしていたのかがわかります。同じ一本の木でも、使う部分によって硬さや表情が違います。元の木の姿を思い浮かべながら、木材のもつ性質を考えて削っています。木の器は、使って傷がついたら削って直せるところもよい所です。自分の子どもたちも、離乳食を食べはじめるときに、僕がつくった木のスプーンを使いました。歯が生える頃になると、さかんにスプーンをかじり、傷だらけになりました。それを紙ヤスリで何度も削って整え、ずいぶん使いましたね。

      北麓草水

      それは、お子さん一人一人の成長の記録を残すようなスプーンになりますね。人と一緒に育つ道具なのですね。同じ形に見えるスプーンやフォークでも一本一本違うという意味がよくわかりました。

    その他に大切にしていること、習慣にしていることは何かありますか?

    • 渡邊さん

      食べることと通ずるのですが、保存食づくりは僕の担当で、主に味噌と梅干しなどを毎年、自家製でつくっています。味噌は毎年7kg入る瓶2つ分つくるのですが、一年で食べきってしまいます。もう少し多めにつくって、3年間熟成させてみたいと思っています。味噌の材料は、大豆・糀・塩とシンプルなので、材料の産地や品種を毎年変えています。今年は地元神奈川の在来種の大豆と、近所の糀屋さんの米麹、塩は瀬戸内の花藻塩を使って仕込みました。味噌は寒い時期に仕込むのがよいと思っていましたが、気温や気候が糀の活動にとって最適の10月に仕込むのがいいよ、と地元の糀屋のご主人に教えてもらい試してみました。大豆の収穫も終わったころで、とれたての大豆も手に入り、おいしく出来ているかと楽しみです。 保存食づくりは、材料が時間を経て熟成し、おいしく変化していくのが、生きものを育てているようでとても楽しいです。何かを育てることが好きなんですね。

      北麓草水

      保管されている材木の隣で、稲を育てていらっしゃいますね。
    • 渡邊さん

      バケツに土と水を入れて、いただいた種籾(たねもみ)を増やしながら、今年も陸羽132号という宮沢賢治が愛した珍しい品種の稲を育てています。

      北麓草水

      どんな味のお米ができるか楽しみですね。
    • 渡邊さん

      収穫はとても楽しみですね。家族でありがたくいただいています。いつか自分で育てたお米で、味噌の材料となる、米麹をつくってみたいと思っています。

      北麓草水

      今後、渡邊さんの作品を見せていただける機会があれば、教えていただけますか?
    • 渡邊さん

      秋から春にかけての、作品展やワークショップで決まっていることをお知らせします。
      *9月8日(土)〜16日(日) 「暮らしのなかの木工展」
      9月14日(金)15日(土)ワークショップ「山桜の木でつくるバターナイフ」
      アルトスブックストア(島根県松江市)artosbookstore.com
      *10月11日(木)〜22日(月)「渡邊浩幸作品展」 
      ピロレイッキ(広島県広島市)
      *11月 7日(水)〜13日(火)「大きな木 小さな木 木の木工展」
      伊勢丹新宿店(東京都)
      *12月中旬 ワークショップ  ツバメ舎(愛知県蒲郡市)
      *2019年5月 「渡邊浩幸個展」 ラ・ロンダジル(東京都神楽坂)

    食べること・つくること・育てること、生活・仕事・生きることが一続きになって、心地よく調和していらっしゃる、渡邊さんの暮らしぶりが伺える、お話とアトリエの空間でした。飾らない言葉で楽しそうにお話をしてくださった、渡邊さんの気さくで自然体な人柄に、肩の力がすっと抜けるようでした。一つ一つのことに丁寧に向き合う姿勢が、暮らし、お仕事、すべてに貫かれているようで、そのことが作品にも表れて、多くの人が渡邊さんのつくるものに心惹かれる理由のひとつなのだと感じました。秋から各地で開催される個展などで、作品ひとつひとつをじっくり拝見したいと思います。ありがとうございました。