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    vol.54

    馬頭琴奏者

    美炎(miho)さん

    民族音楽の枠を超えて、国内外で活躍

    幼い頃からバイオリンに親しみ、馬頭琴アンサンブルの最高峰「野馬アンサンブル」の一員としてアジア各国で演奏活動をされていました。現在はオリジナル曲を中心とした演奏活動の他に、映画音楽やゲーム音楽にも携わり、クラシック、ポピュラー、世界の民族音楽などジャンルを超えて活躍をする、日本では唯一無二の存在の馬頭琴奏者です。音楽で自らの世界をつくりだしている美炎さんに、日々の中で大切にしていることについてお話を伺いました。

    日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 美炎さん

      日常はリラックスした状態で過ごすことを心がけています。自分で演奏する曲をつくるのですが、ストレスを感じている状態だと、曲のきっかけになるひらめきを見逃してしまうのです。

      北麓草水

      演奏旅行もあってお忙しく過ごされることも多いと思います。どのような工夫をされているのか教えていただけますか?
    • 美炎さん

      たとえば朝起きてやらなくてはならないことがたくさんあって、気持ちに余裕がなくなりそうな時にはまずお茶を入れて、ゆっくりした時間をつくってからはじめるようにします。自分が心地よく感じるペースを自分でつくるようにしています。日常のささいなことで、自分で自分を気分よくさせるように心がけて、曲が生まれる環境をつくるようにしています。家事や事務的な仕事、やらなくてはならない日常のことにばかり意識が向いてしまうと、曲が生まれるインスピレーションから遠のいてしまうのです。そうならないように、自分をよい意味でおだてたりごまかしたりしつつ、自分をコントロールしています。そのために割り切って、やらないと決めて切り捨てていることが人よりも多いと思います。曲が出来るときはいっきに集中して仕上げる集中力と、集中できる環境をつくっておく必要があるのです。

      北麓草水

      自分を知って、自分のするべきことに集中できるように環境を整える、セルフマネージメントということでしょうか。
    • 美炎さん

      そうですね。自分をコントロールして、自分のするべきことができるようにマネージメントすることは、私にとって楽器を練習することと同じくらい大切なことです。

      北麓草水

      馬頭琴との出合いや、美炎さんの音楽活動についてお話を伺えますか?
    • 美炎さん

      子どものころから馬が大好きで、「スーホの白い馬」という物語で馬頭琴という楽器を知ったのですが、それはお話の中の伝説の楽器だと思い込んでいました。学生の時に、馬頭琴という楽器がモンゴルの民族楽器で実在するものだと知りました。同時に、馬と人が共に生きるモンゴルを見てみたいと思い、モンゴルに行って馬頭琴とそれを演奏する人たちに出会いました。そして「これは私の楽器だ。」と強く感じたのです。そして誰よりも上手くなると心に決めて、夢中で練習しました。

      北麓草水

      何度もモンゴルに通われて、モンゴルでもプロの演奏家として活動されるようになったのですね。
    • 美炎さん

      馬頭琴の人間国宝であり、馬頭琴を民族楽器から西洋の楽器とも共演できるような音量を持つ楽器に進化させた、チ・ホラグ氏に認められ「野間アンサンブル」の一員として、アジア各地を演奏旅行で巡りました。馬に乗って草原を旅したりもしました。

      北麓草水

      大変貴重な経験をされたのですね。美炎さんの奏でる音から広い風景が浮かぶのは、そのような体験すべてが、演奏に表現されているのでしょうね。近年の活動についてお話を聞かせていただけますか?
    • 美炎さん

      馬頭琴で演奏される曲はモンゴル民謡が大半です。演奏の技術がついてくるにつれて、日本人の自分がこの楽器を演奏する意味について考えるようになりました。そして自分の感じることを演奏で表現する方法として、オリジナルの曲をつりはじめました。日本に帰ってきて、この楽器の奏者としてプロになろうと心に決めました。

      北麓草水

      コンサートホールでの演奏だけでなく、日本中のさまざまな地域の特性を生かした、手づくりのコンサートを数多くなさっていますね。
    • 美炎さん


      栃木県那河川町での山の棚田コンサートは2011年秋から、稲刈りの終わった後の棚田で毎年開催されています。もとは馬頭町という名前の土地で、その名前のご縁で馬頭琴のコンサートを開くことになったのです。地元の人の努力で残されている棚田で演奏するのですが、自然の円形劇場のような地形で音が自然の中で共鳴し、毎年素敵なコンサートになっています。演奏中に赤とんぼの大群が飛び交ったり、森の中から風に乗って綿毛がたくさん飛んできたりと、自然が音楽や集った人たちのエネルギーに反応しているような出来事が起きて、毎年心に残るコンサートになっています。かつては日本に当たり前にあった里山の棚田の景色ですが、高齢化や地方の人口減少とともに、維持することがとても大変になっています。交通の便もよくなく観光地でもない土地ですが、地元の人がその土地の素晴らしさを再認識して、コンサートを開催することで人と人との繋がりが生まれていることを感じて、私もとても嬉しく毎年訪れるのを本当に楽しみにしています。

    その他に大切にしていること、習慣にしていることは何かありますか?

    • 美炎さん

      好奇心やときめく心の感度を大切にしたいと思っています。自分がいつでも心の感度を上げて、さまざまなことに感動していないと、聴く人の心を動かすような演奏はできないと思っています。それは心のエクササイズのようなもので、いつでも心ときめくものを見つけて、自分の心の動きをキャッチすることを意識して行なっています。

      北麓草水

      心のエクササイズという表現は分かりやすいですね。美炎さんはどのような方法で、心のエクササイズを日々なさっているのですか?
    • 美炎さん

      何か素敵な出来事や美しいもの、言葉、風景、または言葉にはできない心を動かされる瞬間に出合ったとします。その時の自分の心の動きや感覚を大切に覚えておいて、後からその感覚を思い出したり、自分の中で探求してみたりするのです。そんな作業から曲も生まれます。

      北麓草水

      時間に追われていると、感動する出来事があってその時は心が動いても、そのまま流れて忘れてしまうことも多いですね。自分の心の動きをキャッチして観察して、その時の感覚を大切にして深めていくという作業は、まさに心や感覚の運動と言えますね。
    • 美炎さん

      介護施設や学校で演奏をすることも多いのですが、演奏中や直後には反応が感じられなくても、後からさまざまな変化があったことを伺うと、音楽の持つ力を感じます。すべての人の心の中にある人を思う気持ちや、ときめく気持ちを刺激して呼び起こす力が音楽にはあると思っています。これからもずっと心に届く曲をつくって演奏活動を続けていきます。

      北麓草水

      5月には2枚組の新しいアルバムを発表され、コンサートも開催されます。
      ・2017年7月31日 「銀河夜行コンサート」 渋谷 サラヴァ東京
      詳しくはウェブサイトをご覧ください。

    美炎さんの奏でる馬頭琴の音色を聴くと、広い風景のイメージが広がり、自分の呼吸までも深くゆったりして、体と心がリラックスしていくのがわかります。効率や目に見える成果だけ追うのではなく、出合ったことや感動を大切に日々過ごすことで、日常と心が豊かになるのではないかと思いました。「今後は映像とコラボレーションしたコンサートも開きたい。」と夢を語ってくださった美炎さんの活躍がますます楽しみです。ありがとうございます。