北麓草水
  • みんなの習慣

    vol.136

    東京農業大学教授 地域環境科学部 地域創成科学科

    町田怜子さん

    町田怜子さんにお会いするため、教鞭をとられている東京農業大学にお邪魔しました。世田谷区の住宅街にある同大学は、新しく整備された学舎と以前からの緑が美しく、近隣住民の方の憩いともなっています。町田さんにご案内いただき、研究室でお話を伺いました。

    日々暮らすなかで習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 町田さん

      自分自身の身体としっかり向き合うことです。
      夜は自宅でゆっくりとお風呂に入り、ヨガやストレッチをする。「自分の身体に丁寧に接する」時間を大切にしています。

      これまで、仕事に全力で取り組み、駆け抜けてきました。日中は学生に教え、地域づくりに関わり、自分の研究をする。帰宅後は家事をして子どもを寝かせ、それからまた仕事。土日には徹夜で論文を書くこともありました。その合間に家族の介護も重なり、まるで1日が36時間もあるように、1日を隙間なく、24時間を使いこなしてきた感があります。

      北麓草水

      ご自身の身体に向き合うようになったきっかけを教えていただけますか。
    • 町田さん

      年齢を意識するようになったからだと思います。40代を全速力で走っていたら、50代が視野に入ってきた。「私はこのままでいいの? 身体、大丈夫?」。そんな思いがふとよぎりました。

      人とのご縁もきっかけでした。私には、震災に見舞われた能登の「美しい里山から始める復興」という研究テーマがあります。能登半島地震の発災直後、能登・輪島在住の東京農業大学卒業生や現役の学生たちとともに、石井かほり監督の映画『一献の系譜』のチャリティー上映会を、大学で企画・開催しました。このご縁をきっかけに、映画監督であると同時に鍼灸師でもある石井さんに、私も施術をお願いするようになりました。

      眼精疲労や肩こり、腰痛、骨盤などを繊細な施術で調整していただいています。時間をかけて、丁寧に、私の身体の状態を見極めてくださるのです。落ち着いた香りがするサロンで、施術後にお茶をいただきながら、能登の生業や人々の生き方などについて、石井さんと語り合うのも楽しみのひとつです。

    • 北麓草水

      リラックスの時間でも、研究のことはお忘れにならないのですね。
    • 町田さん

      石井さんとは関心の対象、ライフワークとしている事柄が重なっているので、話せることがうれしいのです。リラックスからリフレッシュへと時間が移行する、そんな感覚です。

      もともと私は、ストレスがたまると論文を書きたくなってしまうというたちで。公私の別なく、時と場所も問わず、研究テーマについて考えます。自分ひとりの世界に入り、仮説を立てて言葉にし、考えて考えて、立証できたときの「見えた!」という感覚。弾けたように目の前が明るくなる、この何にも代えがたい瞬間に、本当のリフレッシュを感じているのかもしれません。

      北麓草水

      「自分ひとりの世界」に入る時間は、どのようにつくられているのですか。
    • 町田さん

      これは家族に感謝するほかありません。料理は夫がしてくれますし、子どもも大学生になって、私の状況を深く理解してくれるようになりました。うちの家族は、仲はよくてもお互いに干渉することがないのです。夫も仕事をライフワークにしているので、私の立場や研究をとても尊重してくれます。子どもは、私が何も言わなくてものびのび育ってくれました。それぞれが思いのまま、気持ちのまま過ごしていてもバランスがとれている。そんな家族の存在が、自分ひとりの世界に入るきっかけをくれたように思います。

      北麓草水

      町田さんがそこまで没頭されている研究のテーマ、少し教えていただけますか。
    • 町田さん

      ベースになっているのは、美しい景観、風景を保全し、それらを環境や地域づくりに活かしていくための計画論や仕組みづくりです。研究のフィールドとしてきた熊本県の阿蘇や石川県の能登が、震災や水害によって大きな被害を受けたことを契機に、震災復興や防災教育に関する研究にも取り組み始めました。

      北麓草水

      阿蘇も能登も、東京からはかなり遠いですが、自分事として研究に取り組むことができるのはなぜですか。
    • 町田さん

      出会った人たちの顔が思い浮かぶからです。例えば、阿蘇では農家さんや野焼き支援ボランティアさんたちが、離農者が増えて担い手が減っているなか、猛火の熱さに立ち向かいながら、命がけで野焼きをしておられます。能登では、復興の端緒にもついていないような環境で、畑や里山に入り農業、里山との暮らしをされていました。。その場で実際に会い、話しをした人たちのことを思うと感情が揺さぶられます。それがモチベーションとなって、「どうしたらよくなるのだろう」と考え続けられるのだと思います。

    その他に大切にしていること、習慣にしていることはありますか?

    • 町田さん

      気持ちの切り替えです。
      毎朝慌ただしく出勤し、大量のメールを確認しながら授業の準備をし、100人以上の学生の前に立つ。毎日のことでも緊張します。授業の後は会議や審議会に出て、来客があれば対応する。夕方には研究室に戻って学生ひとりひとりと語り合う。その他、書類や資料の作成などデスクワークもあります。だから、ある仕事から別の仕事に取りかかるときは、頭の切り替えがとても大切です。私の場合は、香りがとても役に立ってくれています。

      まずはコーヒー。農大世田谷キャンパスには人気コーヒー店がお店を出してくれているので、よく買いに行きます。お客様をお連れすることもあります。コーヒーの香りと味を楽しむ、ほんの少しの時間でもとても幸せで。それだけで、かなり気持ちが切り替わります。

      また、学生との面談の際には、お互いリラックスして話せるように、研究室で精油を焚いています。リラックスした状態だととても前向きな気持ちで、学生の話に心を傾けられます。学生も、本音で話してくれるようになったかな、と思っています。

      北麓草水

      町田さんはこれからも、走り続けていかれそうですね。
    • 町田さん

      「農福連携」という言葉、たぶんなじみのない方がほとんどだと思います。私が所属している地域創成科学科に、視覚障がいのある学生が入学したことがきっかけで始めた研究です。農業は視覚情報が必要と思われがちですが、一緒に農作業をしたところ、五感を活かした、繊細で質が高く、正確で速い仕事ぶりに感動しました。

      農業や植物は、誰もが安心して関われる「居場所」をつくれる、それに気づきました。障がい者だけでなく、地域に暮らす人たちのためにもなる居場所。それを増やしていく仕組みづくりも、いまでは研究テーマに加わっています。

    町田さんの1日のスケジュールを伺い、その忙しさ、濃密さに圧倒される思いでしたが、ご本人は「忙しさをどう楽しむか」と発想を転換されているようにお見受けしました。「北麓草水の香りのよい石けんやローション、柑橘の精油も心を落ち着かせてくれて、ありがたいです」とおっしゃっていただき、とてもうれしい気持ちになりました。ぜひいつか、北麓草水のふるさと、富士北麓にも遊びにいらしてください。町田さん、ありがとうございました。(2026年9月28日公開)