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    vol.48

    木工作家

    岩崎久子さん

    工房 夏安居(GEANGO)主宰

    自由学園工芸研究所で木工品のデザインと制作に携わり、その後スウェーデンでも木工デザインを学ばれ、さまざまなクラフト展での入選や受賞を重ね、木工作家として活躍を続けていらっしゃる岩崎さんです。現在は工房と岩崎さんの作品を見ることができる、ギャラリーを兼ねたご自宅を長野県に構え制作をされています。秋の深まる長野のご自宅でお話を伺いました。

    日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 岩崎さん

      木工の仕事は下を向いて体を動かし続ける時間が長く、首や背中に負担がかかることが多いのです。体調管理と健康維持のため、1日に20~30分歩くようにしています。

      北麓草水

      この辺りは自然に囲まれていて、どこを歩いても気持ちがよいでしょうね。
    • 岩崎さん

      本当にそうですね。日によって林の中を歩いたり、川沿いの道を歩いたりして、木々の揺れる音や川の流れの音に耳を澄ましています。道々で木の実や小さな花を見つけては、毎日新鮮な喜びを感じています。散歩の途中でご近所の方とばったり会って立ち話をしたり、畑をやっている方から野菜をいただいたりすることもあります。体も気持ちもリフレッシュされますね。今からの季節は空気がとても澄んでいて、山では空気が透き通っている感じがします。冬は雪が降り道も凍結するので、散歩に出ない日は家の中でストレッチをするようにしています。

      北麓草水

      散歩やストレッチをされるようになって、よい変化はありましたか?
    • 岩崎さん

      体の血行がよくなって、体調がよいと感じています。長野に移る以前は、作品の制作と日々のことに追われているように感じることもあり、肩こりや頭痛によく悩まされていました。こちらの生活では落ち着いて、自分のペースで制作ができるようになりました。

      北麓草水

      制作と生活の場を、自然豊かで静かなところに移されたきっかけを教えていただけますか?
    • 岩崎さん

      以前から住まいと工房を一緒にして、長く活動ができる本拠地を環境のよいところに確保したいと考えていました。ある時この辺りを訪れてみると、木工を学んだ北欧に自然や風景、光がとても似ていてすっかり気に入ってしまいました。木工という仕事で空間を美しく、心豊かに暮らすためのものをつくっているのですから、自分自身の生活が荒れてしまっては悲しいですね。こちらに移ってからは心が潤い、豊かな気持ちになれたように感じます。

    その他に大切にしていること、習慣にしていることは何かありますか?

    • 岩崎さん

      あげるとするなら、お茶を楽しむことでしょうか。コーヒーを淹れる代わりに、お茶を点てて抹茶でティータイムにします。抹茶にはビタミンが豊富だと聞いていますので、健康にもよいかと思います。工房にお客様がいらした時にも、お茶を点ててお出しするととても喜んでくださいます。その時に器の話をしたりして、緑の見えるところでゆっくりお茶をいただくのはとても楽しい時間です。

      北麓草水

      岩崎さんの作品である、無垢の木でつくられた大きなダイニングテーブルとソファーが置かれたリビングには、一輪の花が飾られていました。暮らしの空間でありながら、気を散らす日常的なものが何一つとして目に入らないように隅々まで整えられた空間は茶室のようにも感じられました。
    • 岩崎さん

      日々暮らしていると物が散らかりますが、テーブルの上はいつでもすっきりとさせています。またお客様がいらっしゃる時は、お茶事の準備をするように、場を清めて道具をそろえて花をいけることを習慣にしています。そして旬のおいしい野菜で素朴な味の料理をつくってもてなします。

    はじめて岩崎さんにお会いした時、大きなテーブルや木の生命力を感じるような作品を、この小柄な女性がつくっているのかと驚きのような感覚を覚えました。お話を伺う中で、「木工の技術は学校だけでなく、大工さんや職人さんからさまざまなことを教えてもらった。先生はどこにでもいる。」と力強く語る岩崎さんの内に秘めた熱い炎を感じ、作品はその人なのだと思いました。そして訪れる人への細やかな心遣いとやさしさで場をしつらえ、時間と空間を共にすることを大切にされていること、豊かさとはどんなことなのかを体感させていただいたように思います。ありがとうございました。