• オンラインストア
  • お店のご案内
  • みんなの習慣

    vol.127

    南紀白浜の宿 九十九荘

    古久保寿樹さん

    和歌山県白浜町。風光明媚な南紀白浜で、2000年に薪窯料理店をオープンされた古久保さん。その後はカフェ、宿も営まれるようになりました。ご自身の飲食店や宿を運営される傍ら、同業者のコンサルタントやメニュープロデュース業、さらに地元商店街の会長もされています。多方面で力を発揮されている古久保さんに、日々をすこやかに、豊かに過ごすための習慣を伺いました。

    Q.日々暮らすなかで習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 古久保さん

      気持ちをゆっくりさせることを昔から心がけています。我ながら、本当にいつも急がないですね。ピンチになってもワンクッション置ける、急いで判断しないで落ち着くことができます。

      僕は型通りの想定をしないんです。なんでも現地調整型。大枠は決めて、あとは臨機応変に、というタイプです。例えば、ピザがおいしいと評判のお店に出かけたとしますね。それなのに「今日は生地が売り切れでピザは出せません」と言われたらどうしますか?そこで帰ってしまう人もいると思うのですが、僕なら極端な話「何もなくてできるのは卵かけご飯だけです」と言われても喜んで食べる。どうしても、という執着がないんです。

      北麓草水

      落ち着けることや執着がないこと、それらはどのように培われたのか、お心当たりはありますか。
    • 古久保さん

      思い当たるのは子どもの頃に通っていた書道教室です。すごく厳しい先生で、友だちみんなが毎回叱られていました。でも、なぜか僕は一度も叱られず、何をしても褒められたんです。お習字では「の」という字を書くのが難しいのですが、先生は「寿樹くんの『の』が一番うまい」と言う。自分としては、「これでいいのかな」と迷って迷って書いていたと思うのですが、それでも褒められていました。大人になってから先生に伺ったら、えこひいきではなく「寿樹くんには緩急があるから叱らなかった」っておっしゃって。

      僕は兄にくっついて3歳頃から書道教室に遊びにいっていた。その時、みんながしていることをじっと観察してたのでしょうね。子ども心に、ずっと張り詰めていてもよくないし、気を抜き過ぎてもよくないと感じていたのかもしれません。あるいは、両親が無言のうちに、緩急がつけられるように育ててくれたのか。いずれにしても先生の言葉を伺ってから、抜く時は抜く、集中する時は集中するという緩急を、さらに意識するようになりました。

      北麓草水

      (お話を伺った時は「緩」だったのか、口調がゆっくりされていて、そのペースに引き込まれました)
    • 古久保さん

      大人になったら実は頑張るほうが簡単で、力を抜くことのほうが難しいと思うんです。僕はこの20年、1年のうち1か月ほどは必ず休みをとっています。若い頃は旅をしてまわっていたので、今でも旅に出かけます。けれど、家でゆっくりすることもある。共通しているのは、何かするために休むのではなく、ただただ休むために休むということなんです。宿屋やカフェを1か月も休んでいると人の目につきます。ご近所からは「やめたの?」とか、「実は仕事をする必要がないお金持ち?」なんて言われたこともあります(笑)。でも、そうじゃないんです。働くことと並行して、必ず休むことに意識があるのだと思います。

      和歌山は100くらい源泉がある温泉大国です。自宅も温泉ですし、色々な温泉にも入りに行きます。お風呂や温泉に入ることは規則的な習慣ですが、時間や場所や入り方はまちまち。短時間の時もあれば、1日に何度も入ることもあります。規則的なことを不規則に、という感じ。それが気分転換にもなるし、休むことのひとつになっていると思います。

    Q.その他に大切にしていること、習慣にしていることはありますか。

    • 古久保さん

      旅する人の思いに誠実に応えることです。20歳から27歳まで海外を旅していました。若い頃は定職につかず、アルバイトをして稼いでは、旅に時間とお金を使っていました。日本のことより先に海外のことを知りたかったのですが、結果的に日本のことを考える時間にもなりました。そして、27歳の時、思いつきでここ南紀白浜に飲食店を開きました。

      北麓草水

      旅をしている間に考えていらしたのですか。
    • 古久保さん

      実は、宿は20歳頃からやりたいと思っていたんです。その頃は宿に勤めていました。とても組織立ったホテルで、早番・遅番があって。シフト制だと、出迎えた人を見送れないんですよね。見送った人は出迎えていなかったし。「おもてなしを尻切れトンボにするのはイヤだなぁ」と思いながら働いていました。初めて会ったお客様と話し、「どこに行きたい、何を食べたい」というご希望をかなえたい。当時はインターネットがなく、情報はガイドブックだけの時代です。それ以外の情報を提供すること、旅のコーディネイトに腕が鳴りました。お支払いいただいた金額以上の感動をと。お料理でもサービスでも、もっとこうしたほうがよいのにというアイデアがどんどんたまって、スケッチしておきました。それが原体験です。

      北麓草水

      実際に宿を始めるとなると、ハードルがあったと思います。
    • 古久保さん

      広い場所やお金とか、ハードルは高かったです。だから、飲食業から入って、いずれ宿を開こうと。当時はB&B(ベッド&ブレックファスト)が流行りつつあったのですが、僕が目指したのはB&B&B、バー&ベッド&ブレックファストです。チェックインの時は僕がやっているバーに来てもらって、1杯飲みながら宿泊票を書いてもらう。それから2階の部屋に入る、みたいなことを理想にしました。2012年に「南紀白浜の宿 九十九荘」をオープンしました。1日1組限定です。

      北麓草水

      宿の建屋は歴史のある元お茶屋を3年かけてリノベーションされたそうですね。
    • 古久保さん

      元旅人だからこそ、今の旅人の気持ちと通じるところがあります。旅先では、地域の風土や人の郷土愛に癒されることもある。リノベーションで一番大切にしたのは、単なる懐古的な街並みにとどまらない、日本らしさを深く感じ取ることでした。打ち水された玄関、光と風が通り抜ける中庭。季節に合わせた掛け軸や一輪の野の花。心づかいやねぎらいでお客様に奉仕したいと思っています。使っている食材も半径20キロメートル圏内のものです。ほとんど薪で調理しています。昔は猪肉・鹿肉と呼ばれて人気がなかった狩猟肉も、今はジビエと呼ばれ、抵抗感がまったくなくなっています。地元産が喜びに変わるんです。

      北麓草水

      確かに、いまはお土産や買い物をするにしても、いわゆる土産物ではなく、地域独特のもの、日常的な食品や調味料が喜ばれるようになっている気がします。
    • 古久保さん

      20年前に飲食業を始めた時はデザインされたものが多い時代で、旅にも過剰なデザインや作家性のようなものが求められていたように思います。けれど、今求められているのは削ぎ落した旅。土産物やツーリスト用ではなく、その地域のモノ・場所なんです。そもそも宿も地域と旅人が出会う場をつくりたかったから始めました。だから、僕のバーには地域の人もいて、旅人が触れ合えるようにしたい。暮らすように旅をする、旅するように暮らす、という思いです。

      「声をかける」ということも大切にしています。初めて入ったお店でも、よかったら声をかける、自分もそうやって励まされながらここまでやってきました。覚えていないレベルのひと言でも、記憶はかすかに残り続け、モチベーションになる。コンサルタントやプロデュースもそれがベースです。共感した部分があって、向こうからオーダーがあると喜んでやっています。デザインから始めるのではなく共感から始めて、かたちにできる。プロダクトアウトする。何もないのにデザインや世の中の人気に合わせることは苦手なんです。

      北麓草水

      今、またはこれから、どんなことをしていきたいですか。
    • 古久保さん

      国内外も行けるだけ、行けるところまで行きたいですね。以前は毎年ヨーロッパに行っていました。現地に着いたらまずアパートを借りて、そこを拠点にその国を旅していました。この3年は尾道や金沢、倉敷、函館など、歴史や文化がある町を旅しました。繁忙期のお正月明け、1月の3週目頃から2月いっぱいとっていた1か月休みをもっと柔軟に、1~2週間に分けて年2~3回とって旅ができたらいいなぁと思っているんです。どこに行っても、暮らすように旅をするのは変えずにね。

    九十九荘では、北麓草水の商品をアメニティとしてご提供いただいています。「モノづくりの背景、日本の山野草、日本の風土、知恵や工夫、古来のものが商品の背景にあることに共感しています。土や木、畑や田んぼに囲まれて育った僕のルーツは草の匂い。人工的な香りを無意識に感知する自分にとって、北麓草水はよかった。北麓草水の商品を提供するようになってから、アメニティについてお尋ねになるお客様もいらっしゃいます。あとからDMをくださった方もいるんですよ」と古久保さんは聞かせてくださいました。お客様と北麓草水をつないでくださって、どうもありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。今回はありがとうございました。(2023年10月23日公開)