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    vol.89

    料理人

    安田花織さん

    ヤスダ屋主主宰

    畑でつくる野菜を使った日本の母の味と、韓国にルーツを持つおばあちゃんがつくる味。二つの豊かな食文化に囲まれて、自分の手を使い何かをつくることの楽しさを感じて育った安田さん。生きることと直接的につながり、食べた人の反応がすぐにわかる料理に惹かれ、料理人の道に進まれました。生産地を訪ね、人との繋がりや生産者の思いを大切にされ、それを料理で伝えられています。暖かい春の日にアトリエを訪ね、安田さんに日々の暮らしについて、お話を伺いました。

    日々暮らす中で習慣にしていること、大切にしていることはありますか?

    • 安田さん

      朝起きるとまず窓を開けます。朝の光を浴びて新鮮な空気を部屋の中に入れて、自分の体にも新鮮な空気を取り込むようにしています。それから、家にいるときはできるだけ部屋に花を飾るようにしています。

      北麓草水

      この日訪ねた安田さんのアトリエは、大きな窓から光がたっぷり入る明るい空間です。各部屋には季節の花が飾られ、洗面所にも小さな瓶に野の草が飾られていました。花や植物があると、気持ちが和みますね。花を飾るようになったきっかけがあれば、教えていただけますか?
    • 安田さん

      自然を感じながら育ったので、ずっと植物や花は身近な存在でした。身近に植物があると落ち着きます。植物を花瓶に飾る時は、全体のバランスを見ながら自然で美しく見えるように飾るのに苦労しますが、頭と感覚を鍛えることに繋がっているので、面白いと思っています。

      北麓草水

      安田さんのお料理は、色とりどりで見た目にも美しいですね。花を生けることが、料理の盛り付けにも活かされているのですね。
    • 安田さん

      そうかもしれませんね。植物は生きているので、日に日に変化していく様子を見ることも楽しいです。花瓶の水を変えたり、枯れて落ちた花びらや葉を取り除いたり、日々愛でて手をかけてあげると、蕾が膨らみ花を咲かせ、花が散るとその後には葉が出たり根っこが生えてきたりと、植物たちは様々な景色を見せてくれます。その変化に気づき、ちょっとした手間を楽しめるのは心に余裕がある時。それができなくなっているのは、心に余裕がなくなっている時。飾ってある植物が、自分を顧みるバロメーターにもなっていると思います。

      北麓草水

      忙しくて疲れていると、必要以上に甘いものをつい食べてしまったり、後でそのことに気付いて自己嫌悪になったりすることがあります。部屋に飾った植物がそれを教えてくれるというのは素敵ですね。
    • 安田さん

      楽しい、好きというのが一番ですが、自分が今どのように感じているのか、自分の心と体の状態を客観視するように心がけています。

    その他に大切にしていること、習慣としていることはありますか?

    • 安田さん

      ゆっくり、何もしないこと。そういう時間を大切にしています。そして毎日睡眠はしっかり取るようにしています。よい睡眠を取ることで心も頭も体もリフレッシュして、解決できることは多いと思います。一日の中で何も考えずにぼんやりする時間を、心がけてつくるようにしています。

      北麓草水

      仕事をしていると、ボーッとしたらいけない、次から次へと何かしなくてはいけないと、追われているような気持ちになってしまう時があります。少し時間があいても、スマートフォンを覗いて情報を追いかけたり、他にすることを見つけたり、考え事をしたり。純粋にただゆっくり何もしない、考えない時間を味わうことはあまりないような気がします。
    • 安田さん

      そうですよね。私も以前はそうでした。仕事は断らないと決めて、忙しくても時間をやりくりして仕事をこなし、そんな自分に充実感もありました。でもだんだん自分でも気がつかないうちに、消耗していたのだと思います。少し立ち止まってみて、自分が本当に望んでいることを優先することが、大切だと気づいたのです。人からどう見られたいかや評価されたいなどではなく、自分の体と心に響くことが本当に望んでいることだと思いました。自分を大切にして、好きなことを続けることを真ん中にして、仕事や生活のバランスを取るようにしています。

      北麓草水

      フリーでお仕事をされていると、忙しく時間に追われることもあるかと思います。その時はどのようにされるのか教えていただけますか。
    • 安田さん

      もちろん忙しく時間に追われることもあります。そんな時は自分のことを励ましたり、声をかけてなだめたりしています。「もう少ししたら休もうね。」とか「頑張ったね!」と一人で仕事をする時間が多いので、声に出して自分に話しかけています。

      北麓草水

      それはいいですね。自分のことを外側から見ていてくれるもう一人の自分がいて、励ましてくれるのはとても心強いですね。
    • 安田さん

      そもそも自分は一人だと思っていても、数十兆個もの細胞の集まりと言われていますし、人の体内や体の表面には数え切れないほど多種多様の常在菌が生きていて、その数は自分の細胞の数よりもはるかに多いと言われています。目には見えない小さな菌ですが、重さにすると一人の成人に1.0kg~1.5kgも居るそうです。

      北麓草水

      それは驚きです。
    • 安田さん

      私は菌や細胞や、その他様々なものの集合体として生きているのだと思います。そう考えると、自分は一人でいても一人じゃないと感じます。一緒に生きている細胞たちを元気にすれば、自分も健康でいられ、いろんなことがうまくいくのではないかと思っています。

    食材の産地をできるだけ訪ねて、つくる人と会って話を聞き、その思いに心と耳を傾ける。そしてその思いを料理に乗せて食べる人に伝え、人々を笑顔にする。安田さんは、一人で料理をしていても様々な人と繋がり、その人たちとともに仕事をしていらっしゃるのだと思いました。別名、発酵トラベラーとも言われる安田さんの、もう一つのライフワークが各地の発酵文化を訪ねて旅をすることです。そんな安田さんならではの常在菌と一緒に元気に生きるという発想は、伺っていてとても楽しい気持ちになりました。人の免疫力にも関係のある常在菌を、少し意識してみたいと思います。ありがとうございます。